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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和25年(う)176号 判決

被告人

三浦実

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人木村一八郎の控訴趣意第一点について。

一個の脅迫行為により、同時に数人から各別に所持金を強取した場合は、一個の行為にして数個の罪名に触れる場合にあたることは所論のとおりである。しかしながら、一個の脅迫行為により、共有物または、被害者数人から各別にあらずして共同の被害者から金員を強取するか、あるいは、包括的に単一な寄託関係を侵すような場合は、所有者が多数であつても、単純一罪を構成するとみるのを相当とする。(大審院、大正三年(れ)第二、八九九号刑一判決同昭和三年(れ)第一、四九七号刑二判決、同大正五年(れ)第一、七八七号刑三判決)。そこで、今本件につき、原判決挙示の証拠を綜合して考量すれば、被告人等の本件所為は、いわゆる賭場荒しであり、被告人等の強取した金員は、いずれも賭博をする被害者等が賭場を開帳し、その場に出していた賭金であるか、または、賭博に供しようとして所持していたものであつて、前説示のように、その金員は、被害者等の共有関係にあり、被害者等はいずれも共同の被害者であると認め得られないでもないから、かような場合は、被害者が多数であつても、包括的に単一の被害法益の侵害とみても何等差し支えないものと解する。また、かように認定しても、所論のように、被告人の氏名、強取された金額を各別に判示し、一所為数法の関係にあるものと認定することに比照し、少しも、被告人の利益を害するところはないのである。さすれば、原判文の措辞は幾分適切でない部分もあるが、その認定するところは、結局前説示するところと同一に帰するものと認められるので、原判決には所論のように、判決に理由を附しない違法または判決に影響を及ぼす法令の違反は存在しないから、論旨は採用することを得ない。

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